有明工業高等専門学校
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現代GP  有明高専の取組  (2006,12/13)

荒尾地域再生産学住協働プログラム ‐まちなか研究室から食・酒づくり,まちづくり‐
  はじめに

本校の現代GPは,平成18年度に採択され,平成20年度まで,3年間の取り組みを行いました。


 有明高専は昭和38年に設立し,5年間一貫教育で卒業後は即戦力として活躍できる実践的技術者の育成を目指してきたが,20世紀末からの科学・技術の進歩は著しく,発足当時の機械工学,電気工学や工業化学のそれぞれの専門教育だけでは,即戦力としての技術者教育が難しくなってきた.そこで,本校では平成10年,それまでの本校のさまざまな問題点を改善するため,「幅広い工学基礎と豊かな教養を基盤に,創造性,多様性,学際性,国際性に富む実践的な高度技術者の育成を目指す」という新しい教育理念をつくり,人に優しい,自然と共存できる技術の開発に携わり,環境問題・食糧問題・エネルギー問題など今日的な諸課題について柔軟に対応できる技術者を育成すことにした.
 この教育理念に基づき学習・教育目標を立て,それを達成するため本校の低学年に動機付けのための導入教育を展開してきた.特に2年生に混合学級を導入し,異なった学科の学生チームをつくり,創成教育を行うことで,学際性や創造性の目標を達成してきた.また,国際性の目標を達成するため,中国の遼寧石油化工大学との姉妹校締結や3校(シンガポールポリテクニック・テマセクポリテクニック・リパブリックポリテクニック)との交流を行ってきている.
 さらに,地域貢献への取組を通して,この教育目標を達成してきているが,その中に熊本県荒尾市の地域再生事業への参画がある.荒尾市は福岡県大牟田市とともに三井三池炭鉱の町として栄えてきたが,平成9年に三井三池鉱山が閉山し,その後産業は衰退している.特に荒尾市は炭住街として発展してきたため,めぼしい産業もなく,平成16年の有効求人倍率は0.33と全国でも最低水準にある.こうした状況を踏まえ荒尾市は食を中心とした雇用創出を目指し,平成16年6月に「地場産業と住民の共生対流による起業創造と雇用機会の増大」をテーマに「地域再生計画」の認定を国から受けました.
 本校は,こうした「地域再生計画」と連動し,「各まちなか研究室」で住民と学生が協働し,地域貢献を図る活動をはじめているところである.卒業後即戦力として現場に対応できる技術者を養成するためには,インターンシップでは経験できない直接現場の問題解決を経験することが,極めて重要であると考えている.


  概要・目的

 本補助事業の全体の目的は,本校の学習・教育目標である,(A)地球的視野と国際性を備えた技術者,(B)専門知識と多様性・学際性を備えた技術者,(C)実践力と創造性を備えた技術者を養成するという教育目的を,実際に,荒尾市の地域再生事業を通して実践することにより,地域再生を担う技術者を育成する方法を構築するものである.そのため,本校と荒尾市,中央商店街等が協議し,空き店舗を活用し平成17年5月に設立したまちなか研究室「青研(中央商店街)」,平成18年3月に設立した有明海に隣接する旧農業倉庫を活用したまちなか研究室「ありあけの里(有明地区)」,新たに設立する「にんじん畑(駅前商店街)」を実践教育の場所と位置づけ,地域住民との交流を通して地域が抱える課題解決に向け,若者らしい発意と情熱で実践し,地域活性化に貢献することを目指す.図1に「青研」で行われているミーティングの様子を示す.さらには,荒尾市という地域の特性から,内発的で重投資とならない地域づくりや地域内消費を支える産業を維持する視点から,農業産品の加工を実践することにより,現場で考え,現場に着地できる人材,市民と交流できる人材,地域で起業できる人材を養成することを目指すものである.これらは,荒尾市が抱えている課題,すなわち,旧産炭地域での新たな産業創成,地域社会の活性化を生み出す方法を模索するものとして,地域内高等教育機関である有明高専に求められているものである.また,この取り組みは,過疎化が進む他の地域でも適用できるものであり,地域の活性化と高等教育機関の果たす役割として必要なものと考える.

青研
図1 「青研」で行われているミーティング


  内容・特色

 平成18年度現代的教育ニーズ取組支援プログラムで選定された「荒尾地域再生産学住協働プログラム」は,熊本県北部の旧産炭地域かつ田園地域における地域再生の取り組みと共同して,人口減少,高齢化が進む地域での地域再生という課題を,食づくり・酒づくりの農業生産から製造,商品化,販売までの一連の工程を実践することによって,地域の課題を工学的・学際的に解決する方法を修得するとともに,地域で起業できる人材育成を図る取組である.また,荒尾市は辛亥革命に協力した宮崎兄弟の生誕地で,孫文が亡命していた由縁から国際協力に関する地域資源がある.本校は,国際性に富む実践的な高度技術者を育成する高専として食づくり・酒づくりの中で経験するコミュニティ活動を通し国際協力に広い視野を持てる人材育成に取り組みたいと考えている.実施体制のフローを図2に示す.
 具体的には,従来の学問・教育領域を超えて新たに「地域協働科目」を構築することで,地元自治体や企業で活躍できるような地域の課題解決を担う人材や,地域や,国際社会で自考・自立できる人材を実践的に育てることを目指す.このためまちなか研究室を起点に地域の企業や市民と連携した課題解決型の実践教育を行い,地域で育む教育環境づくりを進める.
 地域協働科目は学科共通で行いかつ本校教員と市民が担当する「地域課題プロジェクト」,本校が横断的に取組む実習「教養教育・専門科目」,学際的テーマのため専門性を有する他大学等の教員が担当する「教養教育・基礎科目」を新たに設置する.図3に実習で製作する蒸留装置を示す.
 このほか荒尾市地域再生事業で進めてきた焼酎づくり研究,ワインづくり研究,グリーンツーリズム研究を「各まちなか研究室」を中心に行い,各研究終了後にまちなか研究室活動を報告する「地域課題プロジェクトポスターセッション」と「ワークショップ」を開催する.これらを実践することにより,工学的,学際的見地から地域貢献できる解決策を見出すことを考えていきたい.

フロー
図2 実施体制フロー

蒸留設備
図3 実習で製作する蒸留設備


  有効性・効果

 人口減少社会,高齢化社会の中で,いかに学生が地域貢献の役割を果たすか,そのために「幅広い工学基礎と豊かな教養を基礎にすることが必要である」という意義を学生が市民・教職員とともに共有し合うことが大きな成果である.こうした経験やプログラム開発の方向性を踏まえ,学生達がどの地域に住んでも,コミュニティを足がかりに地域貢献できる人材となれることが地域社会にとって大きな効果と言えよう.
 荒尾市の地域再生事業では食・酒づくりの連携組織による雇用の受け皿づくりを進めている.地域が持っている資源を活用しながら産学住連携を図り,より高度な研究課題を見つけ,雇用創出を図ることとしている.本校はこうした動きに対応しながら,地域に必要な研究機関としての存在価値を組織として高めて行くことも重要な成果である.


  おわりに

 荒尾市にはバイオ・蒸留系ガラス機材の世界的企業が立地しおり,隣接する大牟田市にはファインケミカル分野有数の大企業である三井化学(株)大牟田工場が立地しているなど,本校周辺地域には蒸留分野の関連産業が多い.このような企業と本校が産学連携を行うことで,国際協力分野において蒸留,抽出技術に関する技術発信ができるようにすることを目指す.
 3つのまちなか研究室を将来的には5ヶ所に増やし,各自自立的な運営ができるような仕組みをつくりたい.特にまちなか研究室「青研」では,商店街にワイナリーを併設し,月に一回,住民は有明高専の学生や職員と協働でワインを仕込み,この売上で学生や住民が活動する原資に充当する,というような方策を図りながら,助成事業終了後も継続的にプログラムを実施できるようにしたい.
 最後に,現代GPプログラムを活用した地域再生で地域貢献や市民協働を図ることが,本校の教育や研究の活性化につながり,卒業後の学生が即戦力として活躍し,これからの時代を担う優れた人材となることを期待している.

有明工業高等専門学校教授 氷室昭三